現代の着物とはひと味違う配色の妙や大胆なデザインが印象的なアンティーク着物。しかし「アンティーク着物とは一体どんなものか?」と問われて正確に答えられる人はまだまだ少ないはず。今回はアンティーク着物のその奥深い魅力について解説します。
【目次】
1 アンティーク着物とは?リサイクル着物との違い
2 アンティーク着物が持つ時代ごとの魅力
3 アンティークの小物類も要チェック
4 まとめ
アンティーク着物とは?リサイクル着物との違い
アンティーク着物とは、明治時代から大正時代、戦前の昭和初期に出回っていた着物のことを指します。戦後に作られたものは、リサイクル着物や古着、ヴィンテージ、レトロ着物などと呼ばれ、現代の着物とほぼ変わらない色使いや柄になっています。アンティーク着物でしか見られない特徴や魅力を深堀りしていきましょう。
アンティーク着物の特徴
◆ 袖が長い
アンティーク着物を見分ける上で一番分かりやすいのが袖の長さです。着物でいう袖とは、腕を通す部分ではなくて下に垂れ下がる「振り」のこと。リサイクル着物や現代の着物の袖が1尺3寸(約49cm)ほどなのに対して、アンティーク着物の袖は1尺5寸(約57cm)以上のものが普通。そのため、中に着る襦袢の袖丈に注意を払う必要があります。
◆ 共衿(ともえり)が短い
共衿(ともえり)とは、着物の衿汚れを防ぐために縫いつける短い衿のことをいいます。現代のものだと長さは1尺3寸(約49cm)程度、アンティーク着物だと1尺(約38cm)くらいしかありません。
◆ 全体的に作りが小さめ
昔の人は小柄だったため(当時の女性の平均身長は147センチと言われています)、アンティーク着物も小さめに作られていることがほとんど。大半が桁63cm、身丈152cm前後のサイズ感で、現代の人が着ると丈が足りない場合も。少し小さいくらいなら着付けを工夫することで着られるので、諦めずに呉服店などで相談してみましょう。
◆ 生地は銘仙や縮緬(ちりめん)などが多め
アンティーク着物は戦前の着物すべての総称なので、普段着から訪問着、留袖、振袖、花嫁衣裳に至るまですべてを含みます。その中でも一般的にアンティーク着物と言って思い浮かべるのは、染の小紋や銘仙など当時の普段着が多いかと思います。銘仙は平織の絹織物のことで、軽さと着心地の良さ、リーズナブルな価格が特徴。また経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を意図的にずらしながら織る絣(かすり)という技法が用いられているのも個性的です。
他にはない色合いや模様が楽しめるとあり、大正時代から昭和にかけて広く愛されました。その他、手触りの良さと光沢のある地風が魅力の錦紗縮緬(きんしゃちりめん)、しぼと呼ばれる凹凸に味わいがある古代縮緬や江戸縮緬、地模様が美しくしっとり滑らかな紋論子(もんりんず)などもアンティーク着物に多い生地です。
購入時の注意点としては、やはり古いものなので布地が劣化していたり、シミやカビが発生していることなどが挙げられます。解いて古布として使うならまだ良いですが、実際に着用する場合はよく確かめてから購入するようにしましょう。ネットショップのページではダメージが分かりにくいため、初心者は実店舗や骨董市などで実際に手に取り、プロのアドバイスを聞いてから選ぶと安心です。
◆ 色鮮やかな胴裏
着物の胴の部分に使われる裏地=胴裏。当時は紅絹(もみ)と呼ばれる、紅花で赤色や緋色に無地染めした絹の布を裏地に使っていました。紅絹(もみ)には魔除けの意味もあったといいます。昭和15年に贅沢禁止令が発令されてからは、色のついた胴裏はしばらく使用が控えられました。紅絹は色移りしやすく特に水に弱いので、汗をかいた時などは要注意。しかしそれでも人気が健在なのは、合成染料の台頭によって今ではほぼ生産されることがなくとても貴重ゆえ。着物愛好家の間では、「紅絹(もみ)が見られてこそ本物のアンティーク着物」とする人もいるほどで、この時代の着物を語る上で欠かせない存在だといえます。
◆ 質が良く精巧な一点モノ
江戸後期から平和が長く続き、職人たちも腕を磨くことに集中できたこの時代。着物にも優れた技術が存分に発揮されました。また当時は大量生産ではなく手作りだったため、すべての着物が一点モノ。同じものが一つとしてなく、一期一会の出逢いを楽しむことができます。
アンティーク着物が持つ時代ごとの魅力
洋服が普段着となって久しい現代。私たちの多くにとって着物は結婚式や成人式などの式典でたまに着る特別な衣装です。そのため飽きのこないベーシックな色柄のものが主流となっています。反対に戦前までは着物が普段着だったため、色や柄のパターンが豊富。デザインは主に2種類あり、豪華な刺繍などで贅を尽くした「古典」と、和と洋を融合させた「大正ロマン」が有名。
特に西洋文化の影響を色濃く受けた「大正ロマン」あふれる着物は、遊び心や独特の趣があって今でも人気です。時代を超えて愛されるアンティーク着物の魅力に迫るため、明治・大正・昭和と3つの時代に分けてそれぞれの特色をご紹介します。
時代によって趣が異なるアンティーク着物
◆ 明治時代
アンティーク着物というと、大胆な構図や華やかな色使いのイメージが強いかもしれませんが、意外にも明治初期から中期にかけての着物は地味なものが多めでした。これは贅沢を禁止して倹約を推奨する奢侈禁止法(しゃしきんしほう)が出されていた名残のため。普段着は素朴な木綿で色は渋く無地。文様も小さめで控えめに配されているものがほとんどでした。
しかし明治維新で西洋化が進み、奢侈禁止法(しゃしきんしほう)の影響も薄れてきた明治後期には、おしゃれを楽しむ人々が増加。地色は少しずつ明るい色に、模様の色彩も鮮やかになっていき、生地もやわらかく手触りの良い縮緬(ちりめん)が使われるようになっていきます。またこの頃から女性が学校へ通うことも許され「海老茶式部(えびちゃしきぶ)」という袴スタイルが女学生の間で広まっていきました。
◆ 大正時代
西洋の文化がどんどん日本に入ってきた大正時代。洋服が普及し始めたのと同時に、着物も華やかなデザインが増えていきました。チューリップや薔薇などの洋花柄が登場したのもこの時期です。「海老茶式部(えびちゃしきぶ)」が中心だった女学生のファッションも、矢絣柄(やがすりがら)の着物と行燈袴(あんどんはかま)にブーツを合わせるという和洋折衷スタイルへ流行がシフト。
いわゆる「ハイカラさん」ブームが一世を風靡しました。大正後期に差しかかると、ヨーロッパで流行していた絵画的表現「アールヌーボー」の影響を受け、曲線美を追求したデザインが多く見られるように。また化学染料の発達により色鮮やかな着物が数多く誕生しました。加えてヨーロッパやアメリカでブームを巻き起こしていた「アールデコ」を取り入れた、幾何学模様の銘仙も広く流通。このように日本と西洋の文化を融合させた独特なスタイルは「大正ロマン」と呼ばれ、今でも根強い人気を誇っています。
◆ 昭和時代
大正から昭和へ時代が移った後も「大正ロマン」の人気は衰えることなく、着物には幾何学模様やポップなデザインが好んで用いられました。水玉模様、自動車や飛行機、トランプなど、西洋文化を取り入れた目新しい柄が次々図案化されたのも、昭和初期の着物の特徴です。一方、女学生の制服は袴スタイルからセーラー服へと変化。パリから輸入されたビーズバッグやレース小物、パラソルなども人気を集め、和装に西洋のアイテムを部分的に取り入れたコーディネートが流行しました。
ファッションに敏感な若者の中には、洋服を巧みに着こなすモボ・モガと呼ばれる人たちも登場。和装と洋装が入り交じる街角の風景は、とてもカラフルで楽しいものだったことが想像できます。しかし戦争が始まると、再び派手な服装が禁止され、おしゃれを楽しんでいた女性たちも割烹着やモンペを着るように。この頃の着物は木綿で、袖が短い筒袖(つつそで)が主流だったといわれています。戦争が終わった後は、洋裁ブームや家庭用ミシンの普及により洋服文化が定着しました。それまでの和装中心だった生活は終わり、着物の歴史は一つの大きな転換期を迎えました。
アンティーク着物に欠かせない小物類も要チェック
アンティーク着物を選んだら、次はやっぱりその他のアイテムも同じ時代で揃えたくなるもの。帯をはじめ、帯締めや帯留めなども当時のものがたくさん残されており、着物とのコーディネイトを考えるのも一興です。けれどアンティーク着物と同様に、年代物ならではの注意点がいくつかあります。ポイントを押さえつつ本物のアンティークにとことんこだわって、レトロモダンな装いを楽しんでみましょう!
アンティークの帯、帯締め、帯留めについて
◆ 帯
着物と同じく帯も、時代の流れに合わせてデザインが変わっていきました。例えば明治時代初期の帯は、茶色や黒などの地味な色が多め。これは奢侈禁止法(しゃしきんしほう)の名残であり着物と共通する特徴です。またこの頃は重くて長い丸帯が主流でした。しかし明治30年代に女性の着物を改良しようという運動が盛んになり、大正9年に「日本服装改善会」が発足した後、より締めやすい名古屋帯が考え出されたといいます。大正時代には帯も西洋文化を取り入れたデザインが大流行。油絵的な表現で洋花などを描いたものがたくさん見られるようになりました。
このように着物と帯はセットで進化してきたので、同じ時代のもの同士を合わせるのが統一感を出すポイント。あとは着物が礼装向きなのかカジュアル向きなのかをきちんと判断して、丸帯、両面帯、名古屋帯、染め帯、刺繍帯、引き抜き帯など豊富な種類から格が釣り合うものを選んぶと良いでしょう。デザイン以外の部分に注目してみると、アンティーク帯は短めに作られているものがほとんど。生地自体も弱くなり破れやすくなっていることがあるため、上手く締めるには工夫とコツが必要です。
◆ 帯締め
帯が崩れないよう仕上げに結ぶ帯締め。新品やリサイクル品と比較すると、アンティークの帯締めは太めで豪華。変わって帯留めを付ける場合は、モチーフの大きさによって「三部紐」や「二部紐」と呼ばれるタイプを使いましょう。
◆ 帯留め
帯留めは全体の印象を引き上げてくれる重要なアクセサリーです。必ずつけないといけないわけではありませんが、季節感や自分らしさを発揮しやすく、簡単に雰囲気が変えられるのでいくつか持っておくとコーディネートが楽しくなります。帯留めが今のような形で愛用されるようになったのは明治時代以降。それまで武士の刀の鍔(つば)を作っていた職人たちが、明治時代の廃刀令で職を失い、変わりに作り始めたのが帯留めだといわれています。最初は止め金具のみで装飾としては使われておらず、少しずつ意匠を凝らしたデザインに変わっていったそうです。珊瑚や瑪瑙(めのう)、真鍮など、現代では希少とされる素材を用いた帯留めもあります。
まとめ
日本が誇る工芸のレベルの高さと優れた感性、女性を中心に育まれたお洒落に対する想いが若い世代をも魅了するアンティーク着物。歴史や文化の背景を知ることで更に自分の着物のおしゃれに新たな愉しみを見つけて下さいね。