上品で華やかな雰囲気がほかの正装とは一線を画す振袖。成人式の晴れ着として人気なのはみなさんご存知かと思いますが、振袖がいつ生まれてどのように発展し、成人式の定番になったのかを知る方は意外と少ないかもしれません。そこで今回は、振袖の歴史や魅力を深掘りします。この機会に振袖に対する理解を深めてみてください。
振袖の歴史と魅力
振袖は日本の未婚女性の第1礼装です。成人式のほか、親戚や友人の結婚式に参列する時などにも着用できます。ほかの着物との1番の違いは袖の長さ。地面につきそうなほど袖が長く、ゆらゆら揺れる様子がなんとも可憐でインパクトもあります。また、振袖は金糸や銀糸を多用し、縁起の良い吉祥文様を施したデザインが多いため、お祝いの席にぴったりです。現代では日常的に着物を着る方は減っていますが、それでもやはり「成人式は振袖で! 」と憧れる方が多く、実に8~9割もの女性が振袖で成人式に参列するというデータもあります。
振袖の歴史
振袖が生まれたのは江戸時代。「振り八つ口(ふりやつぐち)」と呼ばれる子ども用の小袖が起源だとされています。「振り八つ口」とは脇の部分が開いている着物のこと。子どもは大人よりも体温が高いことから、熱を外に逃がすためにあえて脇を空けていたといいます。この頃は子どもに限らず、若い女性や元服前(成人前)の男子も着用していました。江戸時代前期になると、若い女性が着る「振り八つ口」だけ袖丈が変化。これまで55cmほどだった袖丈が95cmになり、江戸時代末期には122cmまで長くなりました。袖丈が長くなった理由は、「袖を振ることで厄を払い、浄めるため」「袖の動きで異性の気を引き、求婚の申し出に返事をするため」「踊り子の華麗な振袖の動きが大流行したため」など諸説あります。
江戸時代中期にさしかかると、振袖は子どもや未婚女性の正装として正式に認められました。さらに未婚女性にとっては身分を証明するアイテムでもあったようで、関所を通る際は必ず振袖を着なければならないと決められていたといいます。しかし袖丈の長い振袖で日常生活を送るのは不便だったため、次第に普段着としての役割は失われていき、特別な日にまとう晴れ着として定着していったようです。
現代では伝統の色柄を施した「古典柄」のほかにも、古典的なデザインに今どきな感性を加えた「新古典柄」、どこか新鮮で個性的な「レトロモダン柄」などバリエーションが豊富になり、選ぶ楽しみが増えています。帯や小物も従来の枠組みにとらわれず、リボンやレースなど洋風なものを合わせるなど自由なコーディネートを追求するお嬢様が増えてきています。振袖は日本の美意識を宿した伝統衣装であると同時に、時代に合わせて柔軟に変化・発展してきた唯一無二の晴れ着なのです。
現代の振袖の主な種類
■古典柄
松竹梅などのおめでたい吉祥文様や有職文様など、日本で昔から愛されてきた柄や色を用いた振袖。正統派な装いを好む方に最適です。時代に左右されない美しさがあるので、購入派は長く着ることを想定して古典柄を選ぶ傾向にあります。
■新古典柄
伝統的な文様を現代的なカラーで描き出したものや、地色がグラデーションになっているものは一般的に新古典柄と呼ばれています。古典柄よりも親しみやすい印象で、リボンやレースなどの洋風なアイテムも調和させやすいです。
■レトロモダン柄
ここ数年トレンドになっているのがレトロモダン柄です。和と洋の良いところを上手く組み合わせたものが多く、懐かしいけれど新しい不思議な魅力にあふれています。周りとかぶらないちょっぴり個性的なコーディネートを目指したい方におすすめ。
成人式と振袖の関係
人生の大きな節目の1つである成人式。日本には「冠婚葬祭」という特に重要視される儀式がありますが、この「冠」は元服、今でいうところの成人式を意味します。成人式はそれほど大切な儀式なのです。ここからは成人式の歴史と、なぜ成人式で振袖が用いられるようになったのかをご紹介します。
成人式の歴史
成人式のルーツは中国の通過儀礼「冠礼(かんれい)」にあるといわれています。「冠礼」は成年を迎える男子に冠をつける儀式のことで、日本に伝わってからは「元服」へと形を変えました。「元服」が行われるようになったのは奈良時代以降。数え年で12~16歳の男子が氏神の社前で服装や髪型を大人のものに改め、冠をつけてもらっていました。一方、女子が成人したことを示す儀式には「裳着(もぎ)」というものがあり、平安時代から安土桃山時代にかけて行われていました。こちらは10代前半の女子が対象で、着物や髪型、化粧を大人のものに改めることで結婚も許されるようになったといいます。江戸時代に入ってからは女子の儀式も男子と同様に「元服」と称されるようになり、18~20歳もしくは結婚と同時に行われるようになったそうです。
現代のような成人式の形が生まれたのは、戦後間もない頃です。当時は敗戦によって未来に希望を抱けなくなった若者が多く、このままではいけないと彼らの将来を危惧した埼玉県北足立郡蕨町(現/蕨市)の青年団が、終戦の翌年に「青年祭」を企画しました。そして「青年祭」の幕開けとして「成年式」が行われ、それが全国に広まって今の「成人式」になったといわれています。ちなみに蕨市では現代でも「成人式」ではなく「成年式」という名称が使われています。
1948年(昭和23年)には新たな祝日法が公布・施行され、翌年から1月15日を「成人の日」とし、この日に「成人式」を行うという風習が生まれました。さらにその後、1998年(平成10年)の祝日法改正(ハッピーマンデー制度)によって、2000年(平成12年)から「成人の日」は1月の第2月曜日へ移動。現在は多くの自治体で1月の第2月曜日に「成人式」が行われています。また、日本では1876年(明治9年)より長らく成人年齢は20歳とされてきましたが、2022年(令和4年)に成人年齢が18歳に引き下げられました。その影響で「成人式」ではなく「20歳のつどい」「20歳を祝う会」などに名称を変更する自治体も出てきています。
成人式で振袖を着る理由
必ずしも振袖で成人式に参列しないといけないわけではないのに、なぜこれほど振袖を選ぶ女性が多いのでしょう。それは振袖が特別な衣装だからです。昔は冠をかぶったり、着物や髪型を大人のものに変えることが通過儀礼とされていましたが、今は「振袖を着る」行為が通過儀礼の1つとして定着しています。装いを新たにすることで、子どもから大人へ意識が大きく変わるほか、第1礼装という非常に格の高い衣装をまとうことで自ずと気持ちが引き締まり、大人になったという自覚を強く持つこともできます。また、成人式は20歳の若者だけのものではありません。成人まで大切にわが子を育ててきたご両親や祖父母様にとっても節目の時なのです。立派な振袖姿を見せることは、家族への感謝を示す意味もあります。このように皆が成人式を大切に思う気持ちが、振袖を着るという習慣につながったようです。
振袖3つの種類とおすすめ着用シーン
フォーマルシーンに最適な振袖ですが、実は袖丈の長さによって3種類に分けられていることをご存知でしょうか。それぞれ用途や雰囲気が異なるので、あらかじめチェックしておきましょう。
■大振袖
振袖の中で最も袖丈が長いものを大振袖と呼びます。袖丈の長さは115cm以上で床につきそうなほど長く、とても豪華で重厚感があります。格式も1番高く、主に花嫁衣装として結婚式のお色直しなどで着用されます。袖丈が長く動きにくいため屋外で着るには不向きです。室内用の振袖だと覚えておきましょう。
■中振袖
振袖の中で最もポピュラーなのが中振袖です。袖丈は100cm前後と大振袖よりも短く、ふくらはぎに届く程度の長さになります。格式は大振袖に次ぐ2番目の高さで、成人式、結婚式や各種パーティに参列する際などによく着用されます。また、卒業式に着る袴に中振袖を合わせてもOK。袖丈が長い分、柄をたくさん見せられるのでより華やかで贅沢な装いが楽しめます。
■小振袖
振袖の中で最も袖丈が短いものを小振袖といいます。袖丈の長さは85~95cm程度で、3つの振袖の中では1番格下。卒業式の袴に合わせることが多い振袖です。袖丈が短いといっても普通の着物よりは長く、華やかさや気品があります。その一方で大振袖や中振袖よりも動きやすく、若々しい雰囲気も持ち合わせているのが特長です。一般的な卒業袴のセットについているのは小振袖だと思って良いでしょう。
振袖を着ていくのにおすすめな場所
ここからは振袖が映えるフォーマルシーンをご紹介します。先にも述べたように振袖の中にも格付けがあるので使い分けることが大切です。袖丈が長いほど格が高いと心得ておきましょう。あとはお好みのデザインを選んで、自分らしいコーディネートを楽しんでみましょう。
■成人式
まずはやっぱり成人式です。格調高く美しい振袖は、大人への一歩を踏み出すお祝いの席にぴったりです。成人式をきっかけに振袖の魅力を知り、その後の人生の節目でも振袖をまとうお嬢様も多くいます。
■卒業式
大学や専門学校の卒業式に袴を着用予定の方もいるかと思います。袴の上には小振袖か中振袖を合わせるのが基本です。上下の組み合わせによってさまざまなイメージが演出できるのが袴スタイルの良いところなので、ぜひコーディネートにこだわってみてください。
■結婚式
親戚や友人の結婚式に参列する時にも振袖は活躍します。華やかで気品あふれる振袖は、大切な人たちへお祝いの気持ちを示すのに最適な衣装です。新郎新婦はもちろん、そのご家族にもきっと喜んでもらえるはず。振袖姿のゲストが1人いるだけで会場のムードもぱっと明るくなります。特に受付やスピーチなどを任されている場合は、振袖での参列がおすすめです。
■両家顔合わせや結納
結婚前の両家顔合わせに振袖を着るのも素敵です。特にホテルや料亭など、フォーマル感の強い場にふさわしい装いだといえます。きちんと振袖をまとって礼を尽くす姿は、相手のご家族から見ても好印象でしょう。ただし、カジュアルなレストランでの顔合わせの場合、振袖を着て行くと大げさに見えてしまうこともありえます。会場や相手方の装いなどに配慮して、振袖を着るかどうか決めると良いでしょう。
■お正月の挨拶や初詣
新しい年の始まりを祝うお正月もハレの日です。親戚の家へ新年の挨拶をしに行く時、大切なお客様を自宅で迎える時に振袖を着ていると、特別な雰囲気が盛り上がって喜ばれます。振袖を着て初詣に行くのもおすすめです。特に梅や椿などの早春の柄が入っていると、新年のお祝いムードにマッチします。
まとめ
いかがでしたか。今回は振袖や成人式の歴史を紐解きながら、改めて2つの魅力や結びつきについて確認してみました。振袖や成人式がどう生まれて広まっていったかを知ると、より引き締まった気持ちで節目の時を迎えられるのではないでしょうか。また、振袖にもいろいろな種類があり、多彩な場面で着用できます。成人式に限らず、ぜひさまざまなフォーマルシーンで着用してみてください。きっと特別な思い出になるはずです。