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2022.09.08
コラム

着物から季節を感じる 秋の文様を知ろう

着物は文様装飾を生命とする民族衣装です。着物ほどありとあらゆるものを意匠化して色彩豊かにさらに詩情ある名をつけて着るという衣装はよそにはありません。変化に富む四季に恵まれ、自然を受け止めて文様とし、季節感を詩歌に詠むのも日本人の美意識です。文様の名前にも歴史があります。磨き抜かれた文様の美は海外からも絶賛され誰の目にもわかるものです。歴史や伝統の意味を知れば日本の染織品の味わい方も理解でき民族衣装への誇りにもつながると信じています。今回は数多ある文様の中からこれからの季節にぴったりの文様をご紹介します。

【目次】
1 着物の文様って?
2 秋草文様とは。秋の七草もご紹介
3 吹き寄せとは
4 まとめ

着物の文様って?

着物をあでやかに、美しく彩る「文様」。そこには古来から日本人が大切にしてきた願いや社会のしきたり、季節の移ろいを愛でる心が表現されています。例えば、おめでたい席で着ることの多い振袖なら、繁栄や長寿を表す縁起の良い「吉祥文様」など。もっと身近なところでいえば、四季折々の風景を描き出した「植物・動物文様」や「自然・風景文様」などが有名です。季節の柄を必ず選ばなければいけないわけではありませんが、一部の着物にその時期の花が咲いていると、新しい季節の到来を感じることができます。

秋草文様とは。秋の七草もご紹介

 

暑さが和らぎ、空気が澄んで気持ちの良い秋。そんな季節におすすめな文様に「秋草文様」というものがあります。これは、桔梗(ききょう)、萩(はぎ)、女郎花(おみなえし)、撫子(なでしこ)、葛(くず)、芒(すすき)、藤袴(ふじばかま)からなる「秋の七草」に、菊や竜胆(りんどう)といった秋の野原に自生する草花を織り交ぜて文様化したもの。どれか1つだけ単独で用いる場合もあります。

秋草は決して華やかではないものの、寄り添うように咲くさまは人生の無常観や移ろいゆく時のはかなさを感じさせる独特な趣があり、「静寂」のモチーフとなっています。京都の高台寺には、桃山時代の秋草文の蒔絵が残されており、その写実的で雅なさまは今もなお色あせることがありません。この時代以降に「秋の七草」が衣装の文様に使われ始めたといわれていて、とても長い歴史を誇ります。着物の文様は実際の季節よりも早めに用いるのが定番。「秋草文様」も本格的に秋が深まってきた頃ではなく、残暑が厳しい時期に涼しさを先取りするために使うことが多く、夏の着物や帯、ゆかたなどで重宝されています。

秋の七草

◆ 桔梗(ききょう)
品の良い紫色と星形の花びらが目を引く桔梗。満開の様子も美しいですが、開化寸前の風船のようにふくらんだつぼみも印象的です。江戸時代中期に活躍した人気絵師・尾形光琳に愛された花としても知られ、数多くの作品に描かれています。

◆ 萩(はぎ)
夏の終わりごろに赤紫色、もしくは白色のちいさな花を咲かせます。萩という漢字は日本で作られたもので、くさかんむりに「秋」と書くことからも、秋の植物の代表格であることが分かります。万葉集で詠まれている花は萩が一番多いとか。

◆ 女郎花(おみなえし)
山野に自生する多年草。淡い黄色の小花を傘状につけ、すらりとしたシルエットをしています。「思い草」とも呼ばれ、万葉集以降さまざまな歌に詠まれています。着物の柄としては単独で使われることは少なく、他の秋草などど描かれるのが一般的。

◆ 撫子(なでしこ)
「撫でてしまいたくなるほど愛らしい」というのが名前の由来になったともいわれる可憐な花。薄紅色の細かく分かれた5つの花びらが特長です。現代でも馴染み深い「大和撫子」という言葉の通り、おしとやかで美しいイメージを与えてくれます。

◆ 葛(くず)
マメ科のクズ属に分類されるツル性植物。現代でも空き地などで、紫色や白色の花を咲かせているのを見ることができます。強度があるためカゴ作りに適しているほか、漢方薬や和菓子の材料にも使われるなど、古くから人々に愛されてきた植物です。

◆ 芒(すすき)
万葉の時代から「神が依るもの」「魔除け」として使われてきた芒。中秋の名月のお供え物にも欠かせません。曲線が作り出すなめらかな構図とリズム感のある文様はとても優美です。着物のほかにも家紋などさまざまなものに用いられてきました。

◆ 藤袴(ふじばかま)
キク科の多年草で、秋になると枝先が細かく分かれて淡い紫色の小さな花をたくさんつけます。花の形が袴のようであることから、この名がついたそう。乾燥させると良い香りがするため、平安時代の身分の高い女性は小袋に入れて十二単に忍ばせていました。  

その他の秋の草花

◆ 菊
古くから「邪気を払い、長寿もたらす」と信じられてきた縁起の良い花。平安時代から鎌倉時代にかけて後鳥羽上皇が好んで自分の印として愛用したことから、現在でも天皇家の家紋として使われています。花柄の中で最も位が高い花であり、世代を問わず人気。

◆ 竜胆(りんどう)
薄い紫色の花を鐘状に咲かせるのが個性的。ほかの花が霜枯れした後も美しく咲き、平安時代から人々に親しまれてきました。源氏物語や枕草子にも登場します。3つの花に5枚の葉を組み合わせた笹竜胆は源氏一族の家紋として有名です。

吹き寄せとは

緑、茶、赤、黄、橙など、秋が深まるにつれさまざまに色づいた葉は、木枯らしが吹くたびに枝から落ちます。そして花や木の実などと共に、地面に散らばり、時に風に舞い上がり、やがて1箇所に吹き集められたりします。この様子を着物に映し取ったのが、風景文様のひとつである「吹き寄せ」です。描かれる植物の種類は、紅葉(もみじ)、松葉、松毬(まつかさ)、銀杏(いちょう)、蔦(つた)、栗の実など秋のものが主流。しかし現代では、1年中着られるよう、梅、桜、笹などほかの季節を代表する植物も一緒に描かれる場合もあります。秋の植物のみなら秋、他の植物も混じっていれば通年着てもOKだと覚えておきましょう。


どことなく寂しい情景にも思えますが、「吹き寄せ」を「富貴寄せ=佳いことが集まる」と解釈し、縁起の良い文様とする考え方もあります。実際、着物の模様だけでなく、料理や和菓子などにも広く用いられており、古くから人々に愛されてきたことがうかがえます。咲き誇る花ばかりでなく、地面で風に舞う落ち葉にも心を寄せるのは、日本人ならではの美的感覚なのかもしれません。日常の何気ない光景を装飾に、晩秋から初冬へ移りゆくこの時期ならではの趣をじっくり感じてみましょう。

吹き寄せで使われる文様

◆ 紅葉(もみじ)
紅葉とは楓の葉が色づいたもの。楓は長寿を表すほか、季節により美しく色を変え人々を喜ばせてくれることから「世渡り上手で幸せになれる」という意味もあります。秋を象徴する植物として、桃山時代から数多く描かれてきた文様です。

◆ 松葉
松文様の1つで、松の葉を散らした柄。落ち葉になっても2本の葉の根元がしっかり繋がり、離れ離れになることがないため、夫婦円満などの意味も含んでいます。シャープな形状は、いろいろな植物が集う吹き寄せにおいてもとても印象的。

◆ 松毬(まつかさ)
松の実、つまり松ぼっくりのこと。縁起物である松葉と共に描かれることが定番です。落ち葉や花とはひと味ちがう個性的なフォルムが存在感たっぷり。着物の柄としてだけでなく家紋にも使われ、三つ葉松笠、葉付松笠など数種が知られています。

◆ 銀杏(いちょう)
葉の形が面白いこともあり、さまざまに文様化されています。よくご神木となっていることから神仏加護が得られるとも。その他、「樹齢が長くて火にも強い=生命の象徴」「末広がりの葉=開運招福や富貴繁栄」など、実に多くのご利益があります。

◆ 蔦(つた)
地面や壁面、木の幹を這うようにぐんぐん伸びていく蔦。生命力が強いので、繁栄の象徴として重宝されています。涼しげな風情があるため、夏から初秋にまとうのがおすすめ。葉が赤く描かれている場合は、紅葉シーズンの前に着ましょう。

◆ 栗の実
実りの秋を代表する栗。日本では稲作がはじまる前から食べられてきました。鬼皮と渋皮を除いて作る携帯食「かち栗」に「勝ち栗」という字を当て、出陣前の武士が縁起を担いで食べたことも。また栗きんとんの色が財宝を連想させるため、開運の意味もあります。

番外編!着物以外の「吹き寄せ」って?

◆ 料理の「吹き寄せ」
主に秋から冬にかけて提供される献立の一種。そよ風に吹き寄せられたように、煮物や揚げ物、焼き物などが彩り良く盛り付けられているのが特長。キノコ、銀杏、秋の野菜がたっぷり使われていて、目でも舌でも季節を楽しめます。

◆ 和菓子の「吹き寄せ」
何種類もの干菓子(ひがし)を寄せ集めたもの。関東では小ぶりなせんべいや昆布、関西では木の葉をイメージした落雁(らくがん)、雲平(うんぺい)、有平糖(あるへいとう)などを詰め合わせたものが多いそう。秋の定番和菓子。その他、お月見やボジョレ・ヌーボーの解禁など、秋のイベントにまつわる文様を取り入れるのも素敵です。

お月見

月を愛でる平安貴族たちの起源だとされる風習「お月見」。江戸時代には、稲の収穫を喜び、感謝していたと伝えられています。

◆ 兎
月の使いである兎は、「ツキを呼ぶ」縁起の良い動物だと信じられています。そして長い耳は福を集め、飛び跳ねる姿からは「飛躍」を、子沢山なところからは「豊穣・子孫繁栄」を連想させます。幸せなイメージが強く、今も昔も愛されている文様です。

◆ 月
太陽と並び、古くから信仰の対象・権威の象徴であった月。暦や天文を占う陰陽道(いんようどう)が盛んになった平安時代に図案化され、文様として広く用いられるようになりました。現代でも帯などに多く描かれています。

◆ 葡萄(ぶどう)
実を多く付ける葡萄は、「豊穣」と「子孫繁栄」の象徴。そのため吉祥文様として多用されています。葡萄のみが写実的に描かれている場合は秋に、唐草と組み合わせてデザインされているものは古典文様として通年着ることが可能です。

まとめ

静けさの中にも、凛とした美しさが際立つ日本の秋。豊かに色づいた草木、可憐に咲く花々、漆黒の夜空に浮かぶ月など、この季節を象徴するモチーフはたくさんあります。ぱっと見の好みやその日の気分で着物を選ぶのも、もちろん楽しみの1つです。しかし、散りばめられた文様に思いを巡らせてみることで、今まで気づかなかった発見があったり、新しい季節の訪れをいっそう強く実感できるかもしれません。ぜひ文様に注目して、秋のおしゃれを楽しんでみてください。