=特集=
源氏物語から感じる装束とは
▲紫式部の肖像
石山寺で源氏物語を執筆する様子
狩野深雪筆「源氏手鑑」より
▲胡蝶 詞書 山科持言卿筆
朝廷に仕え、天皇に近侍する公家(くげ)。平安時代末期頃から藤原北家から公家社会が形成され、それぞれの家ごとに官職が決まっていました。山科家は宮廷装束の調達、着装をする「衣紋道(えもんどう)」を伝承。藤原実教が当家初代として始まり、現在30代目。
今回は、平安時代中期の11世紀初めに、紫式部によりつくられた、世界でも最古と言われる長編物語「源氏物語」に注目します。世界的にも有名な作品で、主人公・光る源氏をめぐるさまざまな恋物語、平安王朝の宮廷の様子などが描かれており、2024年の大河ドラマにも選ばれました。
皆さんは源氏物語を生み出した紫式部のことをご存じでしょうか。紫式部はとても謎めいており、紫式部は本名ではなく後世に付けられた名前で、本名は不明。藤原為時(ふじわらのためとき)の娘という説もあります。式部とは、お父様が式部省(朝廷に置ける人事や宮中儀礼などを行う省のひとつ)の官僚だったこと。紫とは、源氏物語のヒロイン・紫の上からきているのではとも言われています。
源氏物語の装束にも注目していただきたいです。着用する場所や季節など、現代と同じようにTPOを考えながら選んでいます。主人公・光源氏は、宮中ではなく訪問先の邸宅に行くことが多くあることから、正装ではなく、今で言うカジュアルフォーマルで描かれています。このように、源氏物語に出てくる「かさね色目」も華やかで色彩のグラデーションが美しく描かれています。さまざまな登場人物の装束や色彩にも着用しながら大河ドラマを楽しむのもひとつだと思います。
▲「源氏手鑑」より
夕顔図 板谷広長筆(部分)
PROFIRE
1995年 京都市生まれ。衣紋道山科流若宗家。代々宮廷装束の調進・着装を伝承する山科家の30代後嗣。各地で公家文化を伝える講演会や展示会を開催し、メディアへの出演や歴史番組の衣装考証など幅広い活動を行う。
山科 言親(やましな ときちか)
紫式部が見た色彩
自然は美しく、人間を癒す。
「かさね色目」という言葉をご存じでしょうか。襲の色目と書き、平安時代に衣の裏表、衣2枚以上重ねた時に色の配合のことを言います。重ね合わせることで、季節感や美しさを表現しています。例えば、十二単に代表されるような重ね着によるグラデーション。春夏秋冬に応じた配色や、通年取り入れられている基本配色など、多彩な配色があります。例えば、春の色であれば「梅」や「紅梅」、「若草」。夏の色は「菖蒲」「蝉の羽」。秋の色は「紅葉」や「菊」、冬の色は「氷」や「雪の下」、「椿」など、四季の移り変わりを色で表現しています。現代で言うとカラーコーディネートのようなイメージです。日本の染織技術は、飛鳥・奈良時代に中国から技術を取り入れており、その技術を軸に風土に合わせた色彩を表現しています。かさね色目は植物の染料から出来ており、だからこそ自然にちなむさまざまな配合名称があります。それらに想いを馳せることも楽しみのひとつかと思います。
今回、裏山(企画名不明)では、「源氏物語と色使い」をテーマに、平安時代の配合の魅力や色彩美を表現します。自然色と向き合い、遊び、楽しむ。人間の感じうる色の美しさをここで体感していただきたいです。長年、人間が生み出した美的感覚は変わることはないでしょう。
紅花染
〈べにばなぞめ〉
(写真提供:株式会社細尾)
美しい色合いの「紅花」に想いを馳せて
山形県花に指定されている「紅花」。紅花はエチオピア原産といわれおり、6世紀ごろにシルクロードの行路にて日本に伝来。江戸時代、全国の紅花生産出荷量は6割以上と言われていた最上紅花。最上川の中流域を中心とした地域で栽培されており、天候の良さなどで日本一の紅花産地へと成長しました。紅花染で染められた紅(くれない)はとても高価なものとされており大変な高級品でしたが、明治時代になってから化学染料の輸入などで衰退しました。しかし、「紅花」の歴史を繋いでいきたいと、現代も山形産の最上紅花にこだわり、昔ながらの技術で紅花染を作り続けているのが五代続く機屋「新田家」です。ぜひその美しさを体感していただければと思います。
PROFILE
1980年生。早大仏文科卒。古物商。文筆家。国内外の古書・古物を扱うギャラリー「かたちのきおく」主宰。
antique dealer
早崎 主機(はやさき しゅき)